●レックス&リズの息子のHAL君 大好きなお母さんと。 3歳を越しても
甘えっ子のお坊ちゃんだそうです。
(注)一番下に加筆しています。 2009年9月13日
うちのような犬舎で、生まれた時から飼育場所を変えずラフコリーだけで
暮らしていると、同じ集団飼育であっても、訓練所のような預かりの場所で
暮らしているコリーとは、ちょっと異なる反応を示すようになったりします。
うちでは起きない怯えや体調不良が、コリーに詳しくない集団飼育の場所では
起きたりします。
シェパードやラブラドールやボーダー・コリーなどのエネルギッシュな犬種が
いっぱいの訓練所などで、他のやんちゃな犬種が大声で荒っぽい叱られ方を
している様子を見たり、聞いたり、壁越しに感じたりするだけで、精神的ストレス
過多のために体調を崩したり、びくびくしたりするようになるラフコリーは、
かなり居ると思います。
もっとも扱っている訓練士たちは、直接にラフコリーを叱っているわけでは
ないので、ラフコリーの体調不良や怯えの原因に気づいていないと思います。
うちの場合は、たとえどんなに他のラフコリーを叱っても、訓練所のような
他の犬が叱られるのを見たり、聞いたり、感じたりしての体調不良や怯えは
起きません。環境に慣れ過ぎるくらい、慣れてしまっているからです。
また、ラフコリーに詳しくない人達は、何かを教えようとした時のラフコリーの
フリーズ状態を犬の不服従だ、反抗だと勘違いをしてしまい、ラフコリーは、
訓練性能が悪いとか、駄目犬だとかと誤解しているケースも多いだろうと
思います。
ラフコリーは、身体能力や知力からして、絶対にできるはずの事であっても、
精神的な緊張やためらいから、行動を起こさない場合が、とても多いのです。
その場合に、これは不服従だと誤解して叱ってしまえば、人間はラフコリーに
信用されなくなり、心を開いてもらえなくなってしまいます。こういうところが、
この犬種の訓練の最も難しい点だと思います。
今朝の事、2階建てバリケンの上階に入れておいた1歳の神楽が、自分で
飛び降りようとせず、前肢を少し空間に出しただけで、じっとしているので、
「カグちゃん、おいで。ほら」ともう少しだけ、前肢を引っ張り出してみたの
ですが、まだ躊躇っていて飛び降りれません。
神楽の身体能力は高く、幼い頃からもっと高いところから何度も飛び降りて
いるので、この高さが怖くないのは分かっているので、ラフコリー特有の
慣れない事を要求された時の精神的な緊張やためらい、自信の無さ、
思い切りの悪さから来るものだと分かっていた私は、どのくらいで緊張が
解けて、自分から飛び降りるか、試してみようと思いました。
結果から言うと、けっこう時間がかかり、フードを見せて励ましてみても
駄目で、その代り、前肢をたくさん引っ張り出すようにして、飛び降りやすい
姿勢を作ってやることを反復して、飛び降りれるようになりました。
つまり要求した行動の途中までを人間が手を貸してやらねば、人間の
要求を理解していても、また、反抗心を持っていなくても、新規の行動に
移れない、“思いっ切りの悪さ”が、この犬種にはあります。
初めての行動に慣れるのに時間がかかるということかもしれません。
そういうところが、思いっ切りのよい、どちらかと言うと無鉄砲なくらいの
性質の犬種に慣れた人には、いらだちを感じさせてしまい、ラフコリーは
能力が低い・・・という評価を与えることになるのです。
でも、実は、とっくに分かっているけど決心がつかない、用心深くて、
身を守る本能の強い犬種なのです。
こういう犬に新しい行動を要求する時には、御褒美よりも、励ましよりも、
叱責よりも効果的なのは、途中まで人が手を貸して、その行動を導き、
何度も反復し褒めることで、“馴らしてしまう”方法です。
この方法は、馬の調教に通じる方法です。馬も敏感で用心深く、臆病で、
精神的な威圧を嫌う生き物です。全く恐怖心を感じさせずに、道具や
設備を利用して、人間が要求する行動を導き、それに馴らすことで、
できなかったことが、できるようになります。
躊躇って踏ん切りがつかない状態のコリーや、緊張してフリーズ状態に
あるコリーを、言葉で叱るのも、過度に励ますのも、駄目犬だと落胆の
気持ちを心に抱くのも、人の感情を読むのに長けたコリーには、それが
容易に伝わるので、逆効果になってしまいます。過度な励ましや餌を
用いての“釣り”ですら、強制的な威圧になる場合があるからです。
ですので、私は、これは躊躇うなとか、これは緊張するなと思うことは、
「さぁ、やるぞ〜、何回で慣れるかな〜」と思いながら、半ば遊び気分で
四の五の言わせず、途中まで手を貸して、要求した行動をさせます。
そして、何度か繰り返しているうちに、怖さも躊躇いも取れて、自信を
持つようになり、ラフコリーは、自分から行動を起こすようになります。
こちらがコマンドをかけずとも、似たような状況になれば、人が求める
前に、勝手に行動を起こしたりもします。
飛び降りるというような、積極的に犬が動かねばならない行動を
ラフコリーに求めると、躊躇いや緊張や思いっ切りの悪さ、自信の
無さが足かせになりますが、逆に、してはいけないこと、人間が手に
持って与えようとしている食物を荒い動作で奪い取ることなどを
叱った場合には、人の不快感やかすかな怒りの感情をすぐに察知し、
直してやらなくなったりします。
そのため、訓練競技などには不向きでも、伴侶としては、ともに暮らして
心地が良い犬となります。飼主さんの顔を見るだけで、その心を読み、
以心伝心の世界を作れます。
能動的な行動を身につけるのには時間がかかるけれども、消極的な
行動(荒い動きを控えるなど)を身につけさせるのは楽な犬だと思って
ほしいのです。
人間の子供で言えば、腕白な体育会系の子供ではなく、おっとり上品に
育った優等生のお譲ちゃんやお坊ちゃんのようなものなのです。
悪く言えば、手がかかって女々しいわけですが、良く言えば、感受性が
豊かでエレガントで聞きわけがよいということになります。
だからこそ、人間がラフコリーに対して抱いた落胆も失望もすべて、
すぐに伝わってしまって、ラフコリーの積極性が更に失われるので、
飼主さんは、「この子は、粗野ではない、おっとりしたお嬢さん、お坊ちゃん
なのだ」とイメージして、物事に慣れるのを“待って”頂きたいと思います。
時間が惜しい場合には、動作の補助をしながら回数多く練習させてやり
行動初期の緊張感を取ってやって下さい。最初の段階をクリアーできれば
あとは非常に簡単にクリアーできる場合が多いです。
ただ、御注意しておきたいのは、人間が補助をする場合、補助を止める
段階を間違うと、ラフコリーは、「待っていれば、お母さん(飼主さん)が
やってくれるもん」と判断して、お任せ状態になってしまう依存心の強い
面もありますので、知らず知らずに飼主さんが、お犬様のメイド状態に
なってしまうことがないようにして下さい。
この微妙な駆け引きが必要なところが、ラフコリーの訓練の難しさであり、
逆に面白さでもあります。
誰でも“最低限の躾”はできるけれども、誰にでもは、“高等訓練”は
できない、「人を選ぶ犬」なのです。
ラフコリー専門 エアウーマン犬舎
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